アルゼンチンタンゴとは

アルゼンチンタンゴは、アルゼンチンとウルグアイの伝統舞踊です。ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。 

アルゼンチンタンゴの歴史

その誕生は1880年頃、アルゼンチンとウルグアイの各首都の間を流れるラプラタ川流域の港町・ボカ地区の酒場で労働者たちが踊ったのが発祥だといわれています。当時のボカ地区は、移民や黒人奴隷、先住民といった雑多な人種が混在する環境。異なる価値観の中で暮らすフラストレーションのはけ口として、男同士で、あるいは娼婦とペアで、激しく踊ったのが始まりだとか。

 

 地元のダンスホールで老若男女に踊り継がれながら、やがてより洗練された形にアレンジされてヨーロッパに広まり、社交界のダンスとして人気を博し、世界に愛好家を増やしていきました。日本に入ってきたのは1920年。パリ遊学中にタンゴの魅力の虜になった目賀田綱美(めがたつなよし)男爵によって紹介されました。

 

男女が体を密着させ、情熱的に踊るタンゴ。日本人のシャイな国民性もあってか、バレエやジャズダンス・HIP-HOPなどと比べると、日本での裾野は決して広くはないでしょう。しかし日本にも「タンゴには他のダンスにはない魅力がある」という熱狂的な愛好家は、少なくありません。裾野は(現状では)狭くとも、“深く濃く”愛されている踊りなのです。

 


~アルゼンチンタンゴの神髄はコミュニケーション!

   体と体で会話し、踊る喜びを分かち合う~

アルゼンチンタンゴは、基本的に男女がペアになって踊ります。踊り方には「サロンタンゴ」と「ステージタンゴ」という2種類があります。「サロンタンゴ」は、ミロンガと呼ばれるタンゴのパーティで踊るもの。「ステージタンゴ」は、ショーや競技会などで披露される、“見せる”ためのタンゴです。

 

 アルゼンチンタンゴの原点は、「サロンタンゴ」にあります。「ステージタンゴ」を目指す人も、「サロンタンゴ」を踊ることでこそ、タンゴの神髄を感じることができます。

 

「サロンタンゴ」に、決まった振り付けはありません。基本的なステップを覚えた上で、あとは音楽を感じながら即興で踊ります。リードするのは男性。パートナーの女性に「こんなステップを踏もう」と合図を送り、女性がその合図を受け取って、ステップで応えます。

 

合図といっても、踊りながら言葉を交わすわけではありません。男性は、重心の移動や、女性の腕や体を支える力加減などを通して、踏みたいステップのイメージを伝えます。つまり、踊りながら体と体で会話をするのです。

 

間違えてはいけないのは、「男性が女性に教える、自分に従わせる」ということでは決してない、ということ。もちろん女性も「自分はこう動きたい」と、自分勝手に男性を振り回してはいけません。相手を尊重し合い、どうしたら相手が踊りやすいかに集中しながら、呼吸を合わせていくことが、お互いに楽しく踊る基本です。

 

 難しそうに思えるかもしれませんが、これは技術ではありません。「相手を知ろう。相手の感じていることを全身で受け取ろう」という純粋な思いをもって相手と向き合えば、初心者同志でも通じ合うことはできます。そうなれば、たとえ難しいステップを習得していなくても、お互いができるステップだけで十分に楽しむことはできるのです。

 

 パートナーと一体となって音楽を感じ、体で会話しながら、お互いのために踊る。相手が踊る喜びを感じた時、それは自分に伝わって相乗的な喜びとなり、踊る喜びが無限に広がっていく。それがアルゼンチンタンゴの最大の魅力です。

 

■参考文献:

「小林太平・江口祐子のアルゼンチンタンゴの踊り方 基礎編」モダン出版・2009